二つの祖国〈中〉 (新潮文庫)
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この商品の感想
裏も表もあるのが人間
上巻では名前しか出てこなかった天羽家の次男、忠が出て来る。はっきりいって兄よりかっこいい(負け戦に殉じる姿に惹かれるのはやはり日本人の判官びいきなのだろうか)。太平洋戦争の最前線のリアルな描写は、従軍作家・山岡荘八の大作『小説太平洋戦争』にも劣らない迫力である。
様々なタイプの日系人が出てくるが、主人公とは対照的に積極的に米軍で出世しようとするチャーリー田宮もまた、辛い子供時代を過ごした人という意味で、歴史の犠牲者でもある。彼はエゴイストかもしれないが、人にはそれぞれの生い立ちがあり、一面的に決め付けてはいけないのだと知った。忠も兄の賢治のしていることは、日本人としての裏切り行為だと思うようになる。しかしじっくりと賢治の状況を追っている立場の読者は、それがやむにやまれぬ仕事なのだとわかる仕組みである。ちょっと賢治側を善意に書きすぎるきらいはあるものの、原爆のニュースを知って慟哭するチャーリーに人間的情があってよかった。後年の『沈まぬ太陽』では善玉と悪玉がもっとずっと単純に分けられていて味がないのが欠点だが、本作は人間性の複雑さが描かれていると思う。
家族とは、愛国心とは
戦争下日米二つの「祖国」に引き裂かれた日系二世を描いた大作の一つのクライマックス。
天羽一家の兄弟たちの愛国心の先は国の衝突の中で引き裂かれ、ついに戦場で
血を分けた兄弟が対峙するという究極の悲劇までをも引き起こす。
人種差別。移民への差別。偏見が誤解を生み、誤解はさらなる偏見を生む。
主人公の周囲の者たちも次々と悪循環に引き込まれて行く。
一方で極東軍事裁判が始まる。法廷でも繰り広げられる争いと偏見。
緻密な調査に裏打ちされた法廷の描写は圧巻で、国の衝突の中では誰もが
一人の小さな存在でしかないというやるせなさが圧倒的な迫力で浮かび上がる。
人間のドラマと裁判の記録で代表される歴史が見事にリアリティを持って読める
点でも貴重な章である。
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